大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

金沢地方裁判所 昭和27年(ワ)188号 判決

原告 竹内春次

被告 本野仁治 外一名

一、主  文

原告の被告金沢司税署に対する訴はこれを却下する。

原告の被告本野仁治に対する請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は原告と訴外村上鉄次間の金沢地方裁判所昭和二十五年(ヌ)第一七号不動産強制競売申立事件について昭和二十七年四月三十日附裁判官斎藤寿作成の配当表中、原告に対する配当額五千七百八十二円とあるを金二万円に、被告本野仁治に対する配当額八千二百三十六円及び被告金沢司税署に対する配当額五千九百八十二円とあるを各削除することにそれぞれ更正する。訴訟費用は被告等の連帯負担とする旨の判決を求め、その請求原因として、原告は訴外村上鉄次に対する金沢地方裁判所昭和二十五年(ワ)第二〇九号約束手形金請求事件の執行力ある判決正本に基き訴外村上鉄次所有の土地及び建物に対し不動産強制競売申立を為したところ、同裁判所昭和二十五年(ヌ)第一七号事件を以て不動産強制競売開始決定があり、同年十月二十三日競売申立の登記がなされ、爾来数回の競売期日を経て訴外南部彌四郎に代金十四万四千九百二十円に競落され、該競売代金も納付された。しかして昭和二十七年三月二十六日代金配当期日に配当裁判所より別表<省略>一記載のような配当表が作られた。しかして同期日に配当表記載の債権者として原告の代理人豊島武夫と第一番抵当債権者株式会社水村商店の代理人岩上勇次が出頭したが、被告本野仁治、同金沢司税署長、その他爾余の債権者は何れも出頭しなかつた。同期日に於て原告は配当表中の右株式会社水村商店に対する利息債権金四万五千四百四十円は不当な高利であるから、右金二万円は減額すべきである旨配当表中の該部分に異議を申立てたところ、同商店は右利息債権二万円を減額すべき旨の異議は承認する旨述べたので、原告は右減額した金二万円は他の債権者不出頭でその者の受ける配当表の配当額に影響がないから債権者である原告にのみ全部配当すべきである旨述べ、前記株式会社水村商店は右二万円を原告に配当することについては別に異議はない旨述べたので、前記水村商店と原告との間に前記金二万円については原告の配当額の分へ加算する合意が成立したものである。そこで配当裁判所は民事訴訟法第六百三十一条第一項後段に従い、この合意に基く配当方法により原告に対する配当額に金二万円を加算し、右商店に対する配当額中から金二万円を減算して配当表を更正し即日配当を実施すべきであるに拘らず、これを為さないで配当期日を続行した。次で昭和二十七年四月三十日の配当続行期日に於て原告の代理人豊島武夫、被告本野仁治、同金沢司税署長の代理人某が出頭した。しかして、右更正された配当表は別表二記載の如くであつて、原告に対する配当額には前記の合意金額二万円を計上しないで、右二万円を爾余の債権者に按分配当し原告に対する配当額五千七百八十二円、被告本野に対する配当額八千二百三十六円、被告金沢司税署に対する配当額五千九百八十二円と計上してあつた。しかしながら配当方法の合意の成立は確定不可動のものとして配当裁判所を覊束し、右合意に従つて配当表を更正すべく配当裁判所の裁量を許すべきものでない。且被告本野は競売申立登記後の昭和二十五年十二月二十九日二番抵当権者として登記されたもので競売申立人である原告に対抗することの出来ないものであるから、配当債権者として配当表に記載されたのは違法である。

原告は右昭和二十七年四月三十日の期日に被告等に対し前記の如き理由で異議を述べたが、被告等は原告の右異議を正当と認めなかつたので、右昭和二十七年四月三十日附配当表中原告に対する配当額五千七百八十二円とあるを金二万円に、被告本野仁治に対する配当額八千二百三十六円及び被告金沢司税署に対する配当額五千九百八十二円とあるを各削除することを求める為に本訴に及ぶと述べた。<立証省略>

被告本野仁治は本件口頭弁論期日に出頭しないし答弁書その他の準備書面をも提出しない。

被告金沢司税署指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする判決を求め答弁として、原告主張事実中原告がその主張の判決正本に基きその主張の土地及び建物に対し不動産競売を申立てその主張の如き経緯により競売代金が納付されたこと、昭和二十七年三月二十六日の代金配当期日にその主張の如き配当表が作られたこと、同期日の出頭債権者が原告主張の者であつたこと、昭和二十七年四月三十日の配当続行期日に於ける出頭債権者及びそのときの更正された配当表は原告主張の如くであることはこれを認める。原告主張のその余の事実は知らないと述べ、第一回配当期日に原告がその主張の配当表記載の債権者である訴外株式会社水村商店の利息債権中金二万円にその主張のような異議を述べたとしても出頭しない債権者である被告金沢司税署は右の異議に関係を有するので、被告金沢司税署の異議も当然あつたものと見做さなければならない。しかして右二万円は本件競売に関する全債権者のために水村商店が利息債権を減額したものと解するを相当とし、且かく解することが同商店の意思である。仮りに右理由がなく配当手続に於て当事者間に合意成立するとしても配当の実施を命ずるのは執行裁判所の手続であり、且裁判所の自由裁量に任すべきものである。従つて当事者の合意に基き配当を実施すべきものでない。従つて配当裁判所が更に第二回の代金支払及び配当期日を開いた執行裁判所の処置は極めて妥当であると言わねばならない。しかして司税署は地方税法第十五条の規定により当然他の債権者より優先して配当を得べきものであるから原告代理人の第二回配当期日に於ける陳述は理由のないものである。従つて原告の請求はいずれも失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

先ず本案について審究する前に職権を以て原告の金沢司税署を相手方とする訴訟につき、金沢司税署が被告となりうる適格を有するかどうかについて按ずるに、地方自治法第二条、第百四十七条、第百四十九条、第百五十六条及び昭和二十五年八月三十一日石川県条例第三十三号、同第三十九号等によれば石川県金沢司税署は石川県なる公法人の長にしてその代表者である石川県知事の権限に属する石川県議会の議決による地方税等の賦課徴収等の事務を分掌させるため設置された石川県なる地方公共団体の下部の行政機関にして、それ自体独立の法人格を認められていないものであることが明かであるので、特別の規定のない限り普通一般の民事訴訟については原告、被告としての当事者たる能力を有しないものであると解するを相当とするところ、この点に関し特別の規定が存しないので石川県金沢司税署は被告としての能力を欠くものであると言わなければならない。従つて右石川県金沢司税署を被告とする本件訴は不適法にして却下されなければならない。

次に原告と被告本野仁治間の訴訟について考察するに同被告は本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しないので、原告の主張事実はすべてこれを自白したものと看做す。

そこで原告主張の経緯により原告が原告主張の代金配当期日にその主張の配当表中、訴外株式会社水村商店の利息債権の金額中金二万円の部分について異議を申立て同商店が右利息債権中二万円を減額すべき旨の異議を承認し、原告は更に右金二万円を他の債権者不出頭であるから債権者である原告にのみ全部配当すべきである旨述べ、前記水村商店は右二万円を原告に配当することについては別に異議はないと述べたことが前記二万円について原告の配当額の分へ加算する合意の成立として民事訴訟法第六百三十一条第一項後段に所謂他の方法に於て合意するときに該当するものであるかどうかについて審究するに訴外株式会社水村商店が、その利息債権中金二万円に対する前記原告の異議を承認し、同金額を自己の配当分から除外されることについて承認した以上該二万円については同商店はその配当に加入しないこととなり、右二万円の配当に関係を有しないことになつたのであるから、その分に対する配当方法について他の債権者と協議ないしは合意をする権利がないものと解するを相当とするから、原告が右二万円を自己に配当すべき旨述べたのに対し、右水村商店が該二万円を原告に配当されても異議がない旨述べても該二万円の配当に加入し得る債権者の意見と同一視することができないから、右を以て民事訴訟法第六百三十一条第一項後段に所謂他の方法に於て合意するときの合意を形成する意思表示と解し得ない。従つて原告と右水村商店との間に前記の如く配当方法に関し意見が一致したものとしても何等配当裁判所はこれに覊束されるものでないと解する。しかして右配当期日に欠席した債権者は該期日に作成された配当表の実施に同意したものと看做されるが、前記の如き該配当表中の配当から除外された分については未だ配当表が作成されていないのであるから出席した債権者が一方的に該部分を自己に配当すべきことの意見を述べても欠席した債権者にして右部分に関係を有する(即ち該部分の配当に加入しうる)債権者が右の意見に同意したものと看做すことができない。従つて前記の如く原告が配当期日に於て前記二万円を自己に配当すべき旨述べても、これを民事訴訟法第六百三十一条第一項に所謂他の方法に於て合意するときに該らないこと明白である。

しかして他に前記二万円については他に優先債権者がなく、且他の方法に於て合意がない限り(この点について他に主張立証がない)右配当から除外された前記水村商店以外の債権者の債権額に応じて平等に按分して配当することが尤も妥当な配当方法であると解されるところ、原告の主張によると続行の配当期日に於て作成された配当表は別紙二記載の通りであるから、前記理念に基き作成されたものと認められるので正当なものと言わなければならない。従つて右と相違する原告主張の所論はこれを採用することができない。

次に原告主張の被告本野仁治は計算書を提出していないこと、競売申立登記後の昭和二十五年十二月二十九日二番抵当権者として登記されたものであることは前記の如く被告に於て自白したものと看做されるのであるが、原告は前記配当期日に別紙第一記載の配当表中の被告本野仁治の債権の存否について異議を述べたことを主張しているものでないから同被告が計算書を提出していないことを本訴に於て論難することは理由がないのみならず、計算書の提出がないからと言つて必らずその債権を該配当から除外しなければならないと言うことも出来ないので、原告の右主張は理由がない。又被告本野仁治に対する配当は本件競売物件の二番抵当債権者として配当されたものでなく普通債権者として配当されたものであることは別紙第一、二記載の配当表に徴し明白であるから、その二番抵当権設定の時期を論難することもまた理由のないことと言わなければならない。従つて爾余の点に関する判断を為すまでもなく、原告の被告本野仁治に対する本訴請求はその理由がないものと言わなければならないから、これを棄却することとする。そこで訴訟費用については民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 高沢新七)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!